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何者にも期待できないお前たちに告げる

2012年08月03日 19:38


クドリャフカの順番 (角川文庫)クドリャフカの順番 (角川文庫)
(2008/05/24)
米澤 穂信

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米澤穂信『クドリャフカの順番』感想です。ネタバレになりそうな記述はなるべく避けますがそんなことより今すぐ書店に走って買ってきて(角川文庫629円税別)2時間で読んでからまた来るのを推奨します。

アニメ版『氷菓』を実家で録画してもらっているのだけれど、今月中に諸々の用事で最低一回は帰省せざるを得ないので、もうすぐ録画分の十数話を観ることができる。
そう考えるともういてもたってもいられず、とりあえず既刊を読みなおすことにした。
のだが、今自宅にあるのは文庫版『氷菓』『愚者のエンドロール』だけで、単行本で購入した『クドリャフカの順番』『遠回りする雛』は実家にある。読めない。
・・・。
あっ、アニメ版表紙じゃん!か、買っちゃおーう!
既に文庫で持ってる二冊は買わないあたり、吝嗇である。

というわけで、読んだ。
文化祭のお話である。
古典部は文集販売をするのだが、手違いで予定の約七倍の量を発注してしまい、過剰在庫をなんとか処分しようと各々四苦八苦する、という流れ。
古典部の売名のため、彼等は文化祭の裏で暗躍する怪盗(?)「十文字」に挑むのだった。

個人的なお話だけれど、僕の母校の文化祭はおよそ「文化祭」の名を冠するに値しないと言ってよい、ほとんどゴミのようなものであった。(平日開催、一日のみ、出店禁止、クラス展示のみ)
ので、このような話はとてもワクワクすると同時に、永遠に手に入らなかった青春の一コマを想い、なんとも言い難い微妙な気持ちにもなるのであった。ファック。

本作の主題のひとつに「期待」がある。
福部里志の言葉を借りれば、彼は作中でこう言う。

「時間的にとか資力的にとか、能力的にとか、及ばない諦めが期待につながるんだよ。(中略)期待ってのは、そうせざるを得ないどうしようもなさを含んでいなきゃどうにも空々しいよ。(後略)」
(角川文庫『クドリャフカの順番』P347)

主人公ホータローが部室でのんべんだらりと店番をしている間、里志は文化祭のあちこちを周りつつ、「名探偵」役の親友に先んじて怪盗を捕えんとする。それは「データベースは結論を出せない」という自身のモットーへの挑戦であり、同時に意外な能力を持っていた友人への、友人としての、対抗だった。
一方、伊原摩耶花は、誰もが良いと認める作品の存在を示すことで、先輩の「全ては主観であり、作品の善し悪しなど究極には存在しない」という説に反抗しようとする。

結局、里志は失敗し、ホータローに「期待」することになった。
摩耶花は、漫画を描く人間として、圧倒的に上に存在する人と、そのさらにどうしようもなく上に存在する人間の才能を目の当たりにした。

誰だって、自分より圧倒的に勝る人間に対して、称賛と同時に、やりきれない思いを抱く。
そのやりきれなさが、諦めに変わる時、彼は期待する。
「俺の分まで頑張ってくれよ」
そうした期待は、しばしば裏切られ絶望に変わったりもする。


僕は思うのだけれど、この「期待」というやつ、誰もが出来ることではない。
里志は親友であり、旧友であり、好敵手であるホータローに対して。
摩耶花は漫画を愛し、漫画を描く人間として。
そういう、同じ土俵というか、同じ物差しに並べられた相手に対してのみ「期待」という感情は生起する。
逆に、漫画に興味もなく、漫画を描くこともなければ、どんな素晴らしい作品に出会っても、摩耶花や、河内先輩が抱いたような感情は生まれないだろう。

「及ばない諦め」とは、どんなに小さくとも、同じ世界に足を踏み入れていなければ感じない。
「何者にもなれない者」は、何者にも「期待」しない。
これは僕がいつも考えていることだ。
僕は周りが思う以上には結構自分が好きだ。
けれど、何も持っていない、と言う点だけは、のどに刺さった小骨のように、チクチクと痛い。
僕は、誰にも「期待」できない。
同じ道に入らなければ、どれだけの「差」があるのかを測れない。

米澤作品には、この「期待」に似た劣等感を持つキャラクターがしばしば出る。
けれど、それよりもまず、期待することすらできない、そんな形の劣等感もあるのではないだろうか。

しかし「誰かに期待したい」というのも、それはそれで限りなく卑屈な態度には変わりないかもしれない。
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