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2011年10月10日 17:11

その店は、品揃えがどうしようもなく悪かった。
僕は書店と言う場所が好きだ。
財布のひもが緩くなる点に目を瞑れば、あれほど居心地のいい場所もなかなかない。
図書館の静謐も捨て難いけれど、新品の紙の匂いは、まだ見ぬ、もといまだ読まぬ物語への期待を掻き立て、その気持ちだけでもうお腹いっぱいになる。
それでもついつい買ってしまう訳だけれど。

家から徒歩2分のところに、小さな本屋さんがある。
本当に小さい店で、見たところ老夫妻が二人で切り盛りしているらしかった。ごく稀にレジを打っていた若い男性は息子だったのだろうか。書店、よりも本屋さんという呼び方がふさわしいような、そんな店だった。
こんなに近くに本屋があるなんて、と初めはとても嬉しく思ったものだった。

けれど、いかんせん品揃えが悪い。
小さい店だったし、僕の要求がマイナーだったからかもしれないけれど、なにか目当てのものがある時はほぼ間違いなく、それを買い求める事は叶わなかった。
それでも、良い店だった。

僕が何か買う時は必ず、会計後に二言三言、店主は声をかけてくれた。
大した事の無い世間話だし、コミュ力の低い僕はこういう交流が苦手だったのだけれど、何故か嬉しかった。
僕の出身が富山県だと聞くと、老人は大学時代の「相棒」が富山で書店を開いていると話してくれた。数十年も続く関係と、「相棒」という言葉の選び方が、印象的だった。
僕にもいつかそう呼べる友人がいるだろうか。その日は色々と考えたものだった。
良い店だった。

その店が、閉店していた。
夏休みは家を空けている事が多かったし、大学方向にあるその店の前を通る機会があまりなかった。
一体いつ店をたたんでいたのか。先月には、営業している所を見た気がするのだけれど。
年齢のためかもしれない。経済的な理由かもしれない。夫妻のどちらかが病気になったのかもしれない。
もう、そこには書店の痕跡は何一つ残っていなかった。

結局僕がその店を利用したのは10回がせいぜいだった。
あの日、短い昔語りをしてくれた老人の顔は、ぼんやりとしか思い出せない。
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